4年半ほど働き、"相場"というものがわかってきて、そろそろ放送現場で使われている技術を語れるようになってきたので、今回、映像伝送方式についてまとめつつ紹介する。
無線・IPは今回含めない。前提として無線より圧倒的に有線のほうが安定するという考えのため有線接続は現場でもまだまだ多用される。IPは有線より方式が乱立しており、さらにIPネットワークの知識も必要で輻輳などの難度の高い障害対応が求められるため、特に流動性の高い映像現場においては有線接続がまだ幅を利かせている。
SDI (Serial Digital Interface)
THE 業界標準。なのにネット上に情報が少ない。
とにかく無劣化無圧縮な信号を銅線(*1同軸ケーブル)を用いて伝送する。
シンプルな接点が接触すれば映像が伝わるので、安定性が高い。加えて遅延もほぼ無く、伝送情報量が多くデジタルで劣化がない。何より100メートルほど伝送できるのでSDIで対応できない場面が少ない。超長距離伝送する場合を除いて、現場での利用率は圧倒的である。
解像度
規格によって周波数が違い伝送できる容量が異なる。地上波レベルはHD-SDIで伝送可能なので、HD-SDIが一番普及している。4Kを伝送するには12G-SDIが必要になる。
- HD-SDI 1.4Gbps の伝送帯域で、HD=1920x1080 を30フレームまで送れる。地上デジタル放送レベルではこれで十分。(地デジは*2 1440x1080 59.94i)
- 3G-SDI 2.9Gbpsの伝送帯域で、HDを60フレームまで送れる。
- 6G-SDI 5.9Gbpsの伝送帯域で、4K=3480x2160を30フレームまで送れる。
- 12G-SDI 12Gbpsの伝送帯域で、4Kを60フレームまで送れる。(BS4K放送は60fpsが基本)
伝送距離
規格とケーブルの品質による(同軸ケーブルは大きく分けて3C・5C等があり、ケーブルの太さと取り回しやすさのトレードオフになっている)が、HD-SDIでは約110メートル程度、12G-SDIでは70メートル程度まで伝送できる。現場回りでの配線は問題ないが社屋の端まで引っ張るには足りないため、リピーター(リクロック)を介したり、あきらめて光ファイバーでの伝送で対応する。最近は基本的には室間は光ファイバーでの伝送をするのが吉(そうなると中身はIPになることもある)
端子
BNCが多く使われる。取り外しには回転が必要で外れにくく非常に便利。
もっと多く普及しているテレビアンテナ用のケーブルに使われるF端子がすべてBNCに入れ替わればよいと思う。
マイナーな端子として、コンパクトに端子を設置するためにDIN・mini-BNC・Micro BNCというものがある。DIN以外はめったに見かけない。
また、BNCの中でも圧着方法は多彩で、それぞれ細かく性能(周波数帯による伝送距離など)が異なる。
音声
無劣化で16チャンネルの音声を伝送可能。
5.1ch=6chの音声とステレオ音声を合わせて伝送できるため8chまでは使われることがあるということもあり、8chまではサポートする機材がある。
HDMI (High-Definition Multimedia Interface)
民生用機材において圧倒的な普及率を誇るため、無視できない規格。SDIとHDMIが混在することが多々あり、*3互いの変換がまた問題となる。
多くのバージョンが存在するため、高解像度の映像を扱う場合はケーブル選定に注意が必要。音声や制御信号も含み、これ1本で多くのことに対応可能できる。
欠点は伝送距離が短いことと、SDIに比べると仕様が複雑であること、何より端子が19ピン・外れやすいなどで安定性が低いことである。
民生用のため著作権保護(HDCP)機能や、機器間の認証・信号が規定されている。
解像度
スタンダードHDMIでは1080iまで、ハイスピードHDMIでは1080pまで、さらに4K・8Kと規格に応じて高解像度・HLGに対応可能となる。
伝送距離
一般的に5メートル以内とされるが、光ファイバーで数十メートルに延長する商品も存在する。
端子
HDMI-Aという一般的な形式に対して、Mini HDMIと呼ばれる HDMI-C端子、Micro HDMIと呼ばれる HDMI-D端子が存在する。小型カメラの多くはMicro HDMI端子を備えている。
いくつかの端子種類が存在するため煩雑なうえ、対応端子によってはさらに接合部が不安定であるので、より確実な接続ができるHDMI-A端子が歓迎される。
音声
仕様上は8chまで対応できるらしいが2chまで対応する機材しかほとんどない。
光カメラケーブル(多治見・LEMO)
完全に業務用。電源やインカム、システムカメラの映像伝送に用いられる。電源・制御は銅線で、映像は光ファイバーで伝送する。各2本ずつ合計6本が束ねられており、このケーブル1本があればすべてが完結する。
200メートル以上は伝送でき、スタジオのシステムカメラとしてはもちろん、中継現場などで多く用いられる。接続部に光端子(フェルール面)があるため微小な汚れでも伝送に障害が発生する。
その他
放送業界では基本的には使われないがまだまだ存在する。
UVC(USB Video Class)
USBで映像を伝送する規格。もともとはWebカメラからPCに映像を送るためのものだったが、仮想WEBカメラ的に映像をPCに送るために、上記の映像規格をUVCでPCに入力する需要が増えており、変換コネクタが多く販売されている。
多くのブラウザや一般的なアプリケーションで扱うことができるため汎用性は高い。フォーマットはMJPEGが基本だがサポートされるフォーマットも増えている。
映像と音声が異なる仕組みで入ってくるため絵と音がずれることが多い。
音声はUSB Audio Class(USB Audio Class)。
DVI (DVI-D DVI-I DVI-A)
18-24のピンを用いて映像を伝送する。PCモニターでよく利用される。
フルHDから4Kまで対応できるが、アナログ信号も使うことがあり、互換性のため様々な端子がある。基本的にはDVI-Dを想定していればよい。音声は通さない。
Display Port (Thunderbolt)
8KまでのPCの様々な解像度に対応する。伝送距離が短い。音声は伝送できる。
HDMIと同じくバージョンが多数あり、ケーブルの選定が難しい。Thunderbolt端子がカバーするプロトコルにも含まれる。昨今のThunderbolt4対応のUSB Type-Cケーブル周りで普及が進んでいる。
VGA(D-SUB・RGB)
古いコンピュータはだいたい対応している、世の中で一番普及している映像ケーブル。15ピンの端子で 2048x1152 (フルHDよりちょっと大きいのでモニタとしては十分)まで表示できる。しかしアナログ。音声は伝送できない。
使わないので説明を省略
コンポジット S端子、RCA
SD画質までしか対応していない(規格が作られていない)ため、ほとんど見かけないが、端子がついているモニタなどは多い。余った端子を有効活用したいときには考えるがSD画質なので萎える。
コンポーネント端子 D端子(D1~D5)
D5はフルHDを伝送できるため一部現場で見かけることもある。端子などの機材がまったく存在しないので触ることはない。