テレビ局のカメラの何がすごいのか

テレビ局のカメラの凄さについて、専門家ではないが、紹介したい。昨今民生用カメラも高品質なものが増えていたり、YouTuberなどが高価なカメラを導入することも増えているが、何が違うのか、何がすごいのか。

いわゆるスタジオや中継現場で利用する巨大なレンズをもつカメラ「システムカメラ」は、カメラ・レンズ併せて1台数千万円程度するのは普通である。報道現場などで使うショルダーカメラ、いわゆる「ENGカメラ(Electronic News Gathering) 」はオプション等含めて500万円くらいはすると思われる。一方で、YouTuberなども買い始めた高級ミラーレス一眼レフカメラや高級ハンディーカムは高くても50万円—80万円ほどであろう。

その差額は何なのか?保証のレベル?カモられてる?無駄にレンズデカい?

結論からいうと、プロ用として求める機能をきちんと実装しているので、
妥当な値段と言える。(必要かどうかは置いておいて)

以下、大きな違いを列挙する。
色々なメーカーはあるが、レンズはキヤノン、システムカメラ本体はikegami、ENGカメラはソニーのものを基準に述べる。

【レンズ】ズーム倍率

たとえば野球中継で必要な倍率をカバーするこのレンズ⇓

https://cweb.canon.jp/bctv/lineup/4k/4k-d/uj111/index.html
26.6kgもするが、8.3mmから1850mm までカバーする。最短撮影距離は3m。
センサーは2/3型なので、フルサイズカメラの35mm換算だと33mm-7400mm・・・は?
※一般的に普通の構図で撮るには50mm ズームレンズでは300mm程度あるのがふつう。

【レンズ】ブリージング ピント調整の再現

普通のズームレンズでは、ピント調整の操作を行うだけで画角が変わってしまう現象(ブリージング)がある。シネマカメラ用のレンズではブリージングが発生しないような工夫がされているが、システムカメラ用のレンズでも基本的には発生しない。
静止画撮影においてはブリージングは問題にならないが、動画撮影において発生すると若干気になる現象である。

また、ズームした状態でピントを合わせて何度かズームアウト・インの操作を行ってもピント面は変わらない。超遠くの観客席に急にズームインをしてもガチっとピントが合うというテクニックでの撮影も可能となる。


【レンズ】純粋なクオリティ(開放での画質)

昔はそうではなかったかもしれないが、4K撮影に耐えうるためというのもあり
レンズ自体の純粋のクオリティ、解像度の高さなども、民生用の機材とは一線を画す。(定量化が難しい)純粋に解像感=細部を見たときの画質の良さ が異なる。

取り回しの良さ

業務用三脚へのマウント対応や、ENGの場合本体を肩に乗せることができることなどによる安定性がある。用途を絞れば「ジンバル」や、小型アクションカメラのほうが勝る場面も多いが、ENGであればほとんどの場面に対応できる。

【システムカメラ】リモートでの画質調整が可能

リモートでアイリス(F値)や感度、ガンマ値などを変えることができる。そのような操作をする役割を一般的にVE(=Video Engineer)と呼び、カメラと対になる受信端末はCCUと呼ばれる。セットでの導入が必要である。
そしてリモートで画質の調整をすることで、現場ではカメラワークとズームの管理に集中することができ、高品質の映像制作が可能となる。
また、映像・管理以外の信号のほかにインカム音声・タリー・電源もまとめて1つのケーブルで伝送することができるなど、ワークフローに配慮した仕様がある。

⇓システムカメラの例
https://www.ikegami.co.jp/archives/menu1/uhk430


【ENGカメラ】何でも撮れる

内蔵NDフィルタ・内蔵エクステンダー があることで、どのような環境でも適切な撮影が可能。
レンズにもよるが、近くの物撮りから、少し遠くを撮る取材などにも対応可能。現場で何があるかがわからないような場面において非常に適している。
そのほか、業界用の記録媒体への対応(XDCAMレコード機能)や、
端子の充実(SDI・XLRなどに標準対応)による色々な映像・音声機材と連携が容易であることなどが挙げられる。

⇓ENGカメラの例
https://www.sony.jp/xdcam/products/PDW-850/index.html

 

▲放送用機材のデメリット

高いことなどを除くと、センサーサイズが小さいことによる”ボケが弱い”ことがある。デメリットと思う人は業界には少ないが、最近は安いシネマカメラが出ているのでそのようなカメラを使うこともできるし、静止画用のスチールカメラで動画撮影をすることで、ボケがよく出た演出が多用される。一方日本の放送用機材はセンサーサイズが小さく、ボケを求めない方針にあることが多い。(テレビ局の海外支局の映像はボケが激しいことが多い..)

 

あと、民生用機材でもできることが多いのに、大げさなカメラを使うことは必要なのかという議論もある。民生用機材もだが、昨今では"iPhoneでいいのでは"、という話にもなってくる。現状に即した機材選択が大事である。